対極を味わう アラン・ペッタション

最近では、カラオケバトルが大変流行っています。高得点を出し、競争する。その為にヴォイストレーングを行っていますね。

東洋の陰陽思想で今後を予想すれば、カラオケバトルが大きく流行すればするほどそのうち視聴者も飽きてきて、見る人も少なくなるであろうと予想します。

それは、なぜか。それは、陰極まれば、陽と変ず。まさしくこれです。宇宙を示す陰陽太極図が正にそれを表わしており、カラオケバトルもいずれの日か急速に飽きられるでしょう。

前置きはこのくらいとして、多くの方々は、音楽と言えば、美しさ、明るさ、優しさ、清らかさ、滑らかさ、煌びやかさ、かっこよさ、心地よさ、迫力などと、おそらく聴いていて楽しいものが好きではないでしょうか?自分もそのような世界は大好きです。
クラシック音楽の世界でも、楽しい曲の方が圧倒的に多いと思います。とかく響きの美しさ、深さは殆どの方が重要視すると思います。

しかし、その対極にあるものは何でしょうか?それを想像してみて下さい。きっと、暗さ、怖さ、悲しさ、憎しみ、恨み、痛み、嘆き、酷さ、敗北、かっこわるさ、ねちっこい、うるさい、汚濁などなど、こういった曲だと思います。

そんな曲などこの世の中にあるのか?それがあるのです。自分が知りえる作曲家の中でただ一人。それは、スウェーデンの作曲家 アラン・ペッタションです。ペターソン、ペッテション、ペッテルソンという名前でも通じます。

ペッタションは、アル中の父から虐待されて育ち、独学で音楽を学び、ビオラ奏者になったが、重度のリウマチからビオラ奏者を辞め、作曲家を始めたけれども、リウマチの酷さからペンも持てなくなり、口頭筆記での作曲を余儀なくされ、晩年は、癌で苦しんだと言われる壮絶な人生を歩んだ作曲家です。

名声、欲、そして、幸せというものを全く信じなかった人物とも言われており、曲は、ペッタションの歩んだ人生そのものとペッタション自身も述べているようです。

最近、話題となった佐村河内守の交響曲第1番 HIROSHIMA の解説書の中にもペッタションの名前が少し出ていたけれども、ペッタションの心の闇は、もっと深いのです。ベートーヴェンの交響曲のように予め勝利を感じて作った曲でもないのです。苦悩から勝利へと明るい未来を感じさせてくれたベートーヴェンとは、正に対極であるペッタション。

苦悩を持ち続け、まっしぐらに地獄を彷徨う。そしてその苦悩を噛みしめる。勝利などない。これがペッタションのワールドなのです。もちろんそんな世界など御免だと感じる人が多く、交響曲作曲家の中では、ダントツに人気はありません。

殆どの方は、その暗黒の響きに何分もしないうちにギブアップすると思います。
しかし、この狂気の世界も何度も聴いているうちに得がたい美しさがあるのです。

先述の我々が好きな曲とは、正に対極の音楽ですが、その対極の中にもやはり価値というものが存在します。これがペッタションファンの密かな喜びなのです。そして、ペッタションの交響曲16曲中 最高傑作の一つが、交響曲第9番なのです。

ベートーヴェン、ブルックナー、マーラー この三者の崇高な第九に新たにペッテションの第九も肩を並べる日が来てほしい。そんなことを考えます。YOUTUBEでも聴けますので、ご紹介致します。

自分は、この第九何度も聴きました。20分頃から地獄の笑いみたいなトランペットが吹きすさびます。まっしぐらに地獄に堕ちるペッテション。何という音宇宙であろうか。。。

しかし、その自分を客観的に鳥がはるか上空で地上を見下ろすが如く、苦しむ自分を上空から見つめる視点を感じます。

この曲は、単一楽章にて、70分程続く壮絶な曲です。演奏も相当な集中力と高い精神が要求されます。聴衆共に、多分とても疲労すると思われます。
この70分で感じる唯一のほんの少しの安らぎは、69:26~69:50の最後の最後24秒です。このたった24秒の曲想は、何を意味するのかいつも考えます。

最後にもう一つの金字塔 交響曲第13番を載せておきます。
この巨大な音の塊そして、奈落的な宇宙観、その価値を感じることが読者の方は出来るでしょうか?狂気からの美、これもまた大芸術です。
この曲もまた、単一楽章にて約70分です。

ペッタションは、ベートーヴェン、ブルックナー等、生涯同じ精神を貫き同じ道を歩んでいます。これには賞賛したい名作曲家であることを今回は、紹介させて頂きたくホームページアップいたしました。